「いつも女性のことを良く言う人は」(ピゴー=ルブラン)

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名言集に収録された名言に関する話です。

寺山修司の「ポケットに名言を」から引用します。

女をよくいうひとは、女を充分知らない者であり、女をいつも悪くいうひとは、女をまったく知らないものである。
―モーリス・ルブラン「怪盗アルセーヌ・ルパン」

角川文庫「ポケットに名言を」寺山修司 から引用

女性について、よく言う者は「充分知らない者」とされ、いつも悪く言う者は「全く知らない」とされて、「ではいったい女性についてどう評価すればいいんだ?」と疑問に思ったりします。

「世界名言大辞典」という書籍に収録されている同じ言葉は、ほぼ同じように訳されていました。

女をよく言う人は、女を十分知らないものであり、女をつねに悪く言う人は、女を全然知らないものである。
―ルブラン「断片」

明治書院「世界名言大辞典」梶山健 編著 より引用

こちらは「モーリス・ルブラン」ではなく「ルブラン」とだけ記されています。出典も「怪盗アルセーヌ・ルパン」が「断片」と異なります。

おなじ名言を、さらに「世界引用句事典」で調べてみました。

女をよく言うひとは, 女を十分知らないものであり, 女をつねに悪く言うひとは, 女を全然知らないものである. ―ルブラン

明治書院「世界引用句事典ー名言・格言・俚諺ー」梶山健 編 より引用

「ルブラン」は同じですが、出典はありません。念の為に人名・出典索引を確認してみると、ルブランについてはこういう説明が。

LEBRUN, Juillaume Pigault (1742~1835)フランス 作家

明治書院「世界引用句事典」人名・出典索引 より引用

このルブランは、寺山修司が記したモーリス・ルブランとは別人なのではないかという印象。調べてみると、確かにモーリス・ルブラン(Maurice Marie Émile Leblanc, 1864~1941)とは違う人であることが分かりました。

“LEBRUN, Juillaume Pigault”(Pigault-Lebrun)は、現在の日本では「ピゴー=ルブラン」または「ピゴー・ルブラン」と表記される、こちらもフランスの作家です。
日本語では同じ「ルブラン」ですが、もとのフランス語では綴りが違っています(発音も違います)。

  • モーリス・ルブラン Leblanc[ləblɑ̃]
  • ピゴー=ルブラン Lebrun [ləbʁœ̃]

おそらく寺山修司は、ルブランと言えばモーリス・ルブランだろうと思い込んで、そして日本ではよく知られた「怪盗アルセーヌ・ルパン」という登場人物名をあたかも出典であるかのようにして引用したのだろう、と想像されます。
さらに言えば、寺山は「世界名言大辞典」に記載された「ピゴー=ルブラン」の日本語訳の細かい部分を変えて引用しているようで、「うーん、これはちょっと」と思わずにいられません。

「ピゴー=ルブラン」による原文(フランス語です)はこうです。出典は今のところ不明。

Ceux qui disent toujours du bien des femmes ne les connaissent pas assez ; ceux qui en disent toujours du mal ne les connaissent pas du tout.

英訳されたもの。

Those who always speak well of women do not know them sufficiently; those who always speak ill of them do not know them at all.

英→日訳(DeepLを利用しました)。

いつも女性のことを良く言う人は、女性のことを十分に知らないし、いつも悪口を言う人は、女性のことを全く知らない。

原文も英訳も、「;」(セミコロン)が繋ぎに入っていて、前後を対比させるように文が書かれています。
そして、英訳では前後の文のいずれにも“always”が使われているので、片方の「いつも」を省略して訳すと、やや論旨がぼやけて分かりづらくなるかなと感じます。

私が英日訳するとこうです。

いつも女性のことを良く言う人は、女性のことを十分に知らず、いつも女性のことを悪く言う人は、女性のことを全く知らない。

しつこいような書き方になってしまうのですが、こう書けば「ピゴー=ルブラン」の言いたいことがほぼ正確に日本語で言い表せるのだと思います。