名言に関する話です。
岩波書店『世界名言集』岩波文庫編集部編に収録されている次の名言について。
汝の視力を内部に向けよ、やがてそこには、
いまだ発見されざる、千もの領域が見つかるだろう。
その世界を経巡り、身近な宇宙地理学の
最高権威者となれ。ソロー『森の生活』(下)270
―岩波書店『世界名言集』岩波文庫編集部編 から引用(298p)
2年ほど前に書いた「汝の立つ処深く掘れ、そこに必ず泉あり」(ニーチェ『悦ばしき知識』)とかなり似た文だなと感じたので、原文を探してみることに。
ソローについては、Wikipediaによると
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(Henry David Thoreau、1817年7月12日 – 1862年5月6日)は、アメリカ合衆国の作家・思想家・詩人・博物学者。
で、『森の生活』はソローの代表作です。発行は1854年。
原文は英語です。引用します。
Direct your eye inward, and you’ll find
A thousand regions in your mind
Yet undiscovered. Travel them, and be
Expert in home-cosmography
Henry David Thoreau “Walden; or, Life in the Woods”から引用
findとmind、beとcosmographyで韻を踏んでいるのが分かります。
ニーチェの「汝の立つ処深く掘れ、そこに必ず泉あり」と比較してみると、日本語訳で同一の語は「汝」だけなのですが、「身近なところをよく見ろ」という意味においては同じかなと思うのです。
ただ、似ている度合いで言うと、ニーチェの「汝の立つ処深く掘れ、そこに必ず泉あり」よりも、マルクス・アウレリウスの『自省録』にある
自分の内を見よ。内にこそ善の泉があり、この泉は君がたえず掘り下げさえすれば、たえず湧き出るであろう。
―岩波文庫 マルクス・アウレーリウス『自省録』第7巻59章(神谷美恵子訳)を引用
の方かなとも感じます。
書かれた順番からすると『自省録』→『森の生活』→『悦ばしき知識』となります。なので、『自省録』第7巻59章をヒントにしたソローが『森の生活』で似た表現をして、両者を読んだニーチェが『悦ばしき知識』でそれらと似た文章を書いた、だったら面白いよなぁなのですが、おそらくそれは「門外漢が馬鹿なことを言っている」なのでしょう。
ソローの『ウォールデン 森の生活』は、「その思想が後の時代の詩人や作家に大きな影響を与えた」ということなので、ついつい「自分も影響されたい」と思ってしまいました。