ぼくは二十歳だった(ポール・ニザン『アデン アラビア』)

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名言に関する短い記事。

ポール・ニザン『アデン アラビア』 の冒頭です。篠田浩一郎氏による訳。

ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。

ポール・ニザン『アデン アラビア』 (篠田浩一郎 訳・晶文社/1966年)

非常に有名な文章なのでご存じの方も多いかと考えます。

ポール・ニザンの書いた原文(フランス語)はこうなっていました。

J’avais vingt ans. Je ne laisserai personne dire que c’est le plus bel âge de la vie.

Paul Nizan “Aden Arabie” (1931)

「美しい年齢」(bel âge)というのは日本語では普通言わないので、「これはもしかすると意訳なのかな」と思っていました。

他の訳者によるもの。

ぼくは二十歳だった。それが人生でもっともすばらしい年齢だなどと、ぼくはだれにも言わせはしない。

ポール・ニザン『アデン・アラビア』(花輪莞爾 訳・角川文庫/1973年)

僕は二十歳だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない。

ポール・ニザン『アデン、アラビア』(小野正嗣 訳・河出書房新社/2018年)

となっています。
“bel”は「美しい」のか「すばらしい」のか。
私は「『すばらしい』の方がきっと元の文章に近いのだろう」と考えていたのですが、フランス語に堪能な人がたくさん参加しているコミュニティで質問したところ、即座に「美しい年齢だ」という返事がありました。
花輪莞爾氏の訳(すばらしい年齢)が原文に一番忠実なのではないかと思っていたので、見事にハズレです。
そして、上の3訳の中では篠田浩一郎氏の訳がニザンの書いた文に一番近いのだとか。

いずれにしても、「ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。」はまさにその通りだなと思います。私の場合、いくらか自虐の意味が入ってしまいますが。

そしてこの文章は、どちらかというと20歳あるいはその前後の年齢である若い人向けの言葉ではなく、むしろ当然青年期を経た、ある程度高年齢の人向けのそれではないかなと感じます。

ちなみに、「アデン」はイエメンの都市名で、書名“Aden Arabie”(『アデン アラビア』/『アデン・アラビア』/『アデン/アラビア』)は、「アラビア(半島)の(都市)アデン」という意味ですね。