「ぼくは期待している」(メレディス)

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名言についての短い記事です。

角川文庫「ポケットに名言を」(寺山修司)に収録されている名言から引用します。

ぼくは期待している。女というものは、男によって文明化される最後のものであろうと。
ジョルジュ・メレディス「喜劇論」

角川文庫「ポケットに名言を」寺山修司 から引用

今の時代には実にそぐわない内容です。女性蔑視であるとの非難があっても仕方ないと思います。

George Meredithによる原文(英語)はこうです。

I expect that Woman will be the last thing civilized by Man.

―“The Ordeal of Richard Feverel” George Meredith

作者のメレディスは同じであるものの、出典は寺山氏が出典であるとした「喜劇論」ではなく、別の書名です。

正しい出典を記した『世界名言大辞典』からの引用を。

女は男によって文明化される最後のものになろうと思う。
―メレディス「リチャード・フェヴレルの試練」

『世界名言大辞典』(明治書院・梶山健 編著)から引用

寺山修司の引用がどの書物からなのかが不明ですが、“I expect (that)” の訳が両者で異なっています。
つまり、寺山修司の引用は「期待している」で、『世界名言大辞典』の方は「思う」になっているのです。私も“I expect (that)” の訳は、この場合「期待している」ではなく、単に「思う」でよいと思うのですが。
と言ってもこの名言とされる一節が主張する内容に賛同する訳ではありません。
「女というものは、男によって文明化される最後のものであろう」ということを、「期待している」であろうが「思う」であろうが、その言明が女性蔑視であることに変わりはないのですから。

メレディスによる英文

I expect that Woman will be the last thing civilized by Man.

も、ある程度諸外国で人気のある名言で、「本当にこれでいいのか」と疑問に思い、菊池勝也氏訳『リチャード・フェヴェレルの試練』を借りてきて該当の部分を確認してみました。
800ページを超える本の冒頭部分に当該の文章があります。「女は男によって文明化される最後のものになろうと思う。」と同じ部分を青色で表示し引用します。

彼は、たとえていうなら自らの主張する根本原理があまねく一般に受け入れられている人間のように、おごそかに言明する。
『思うに、女性とは男性によりて教化されるにもっとも手間取る存在ならん』
そしてこの無礼極まりない言葉から、(中略)奇妙な話ではあるが、この危険で侮辱的な特長一つのゆえに、この小さな書物は忘れられることがなかったのである。(後略)

ジョージ・メレディス『リチャード・フェヴェレルの試練』菊池勝也 訳 松柏社「第1章 巡礼の頭陀袋」から引用

作中の書物「巡礼の頭陀袋」に記されている文章を引用した形になっており、文脈からすると「思うに、女性とは男性によりて教化されるにもっとも手間取る存在ならん」は明らかに批判の対象になっているのでした。

確かに「女は男によって文明化される最後のものになろうと思う」(思うに、女性とは男性によりて教化されるにもっとも手間取る存在ならん)という言葉は、ジョージ・メレディスの『リチャード・フェヴェレルの試練』にあるのですが、作者の意図としてこの考えを是としているのではなく、メレディスはむしろ反対の意見を持っているのが明らかです(全部は読んでいないのですが)。

著作に記されているからという理由で、文章がそのまま著者の考えであると決めつけるのは危険です。あくまでもどのような文意がそこにあるのかを見極めないと、今回のようなことが起こるのだなと認識しました。この件は、メレディスにとっていい迷惑です。